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なんぼくのとうかいどうよつやかいだん

南北の東海道四谷怪談

田中 貢太郎

Read 南北の東海道四谷怪談 (なんぼくのとうかいどうよつやかいだん) by 田中 貢太郎 (たなかこうたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 16,555 characters · 34 screens

Aozora Bunko

「まあおまえは」

お袖はいきなり起って障子を開けて逃げた。直助は追っかけた。

「まあ、まあ、お袖さん」

直助はお袖の袂をつかんだ。お袖はもう逃げられなかった。

「なんぼなんでもおまえと此の顔が」

「逢わされねえのはもっともだが、お袖さん、おまえは孝行だのう」

お袖は袂で顔をおおって何も云わなかった。

「まあ坐るがいい、おめえがこんな商売をするのも、みんな親のためだ、おれは何もかも知っている」

「は、はい」

「だからさ、おれの云うことを聞いて、今日かぎり、きれえさっぱりと足を洗ったらどうだ。こんなことが親御に知れたら、昔かたぎの左門さまじゃ」

「わたしも、それが」

「そうだろうとも」懐の紙入から金を出して、「まあ、此の金で、左門さまに袷でも買って著せるがいい」

お袖は直助の顔をしみじみと見た。

「すみません」

「なに、そんな遠慮はいらねえ、そのかわり、彼方へ往って、ゆっくり話そう」

「でも、そればっかりは」

「いいじゃねえか、いつまでもそうつれなくするものじゃない」

直助はお袖を引っぱるようにして室の中へ入った。其処へ宅悦の女房のお色が顔を出した。

「お紋さん、ちょっと」

お袖は困っているところであった。