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なんちしんじゅう
南地心中
泉 鏡花
Read 南地心中 (なんちしんじゅう) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 39,205 characters · 79 screens
恥辱ではない。汝ゃ、丁稚から飛上って、今夜から、大阪の旦那の一人。旧を忘れぬためという……取立てた主人の訓戒と思え。
呼べ、と言えば、婦どもが愚図々々吐す。新枕は長鳴鶏の夜があけるまでは待かねる。
主従は三世の中じゃ、遠慮なしに閨へ推参に及んだ、悪く思うまいな。汝ゃ、天王寺境内に太鼓たたいていて、ちょこんと猿負背で、小屋へ帰りがけに、太夫どのに餅買うて、汝も食いおった、行帰りから、その娘は馴染じゃげな。足洗うて、丁稚になるとて、右の猿は餅屋へ預けて、現に猿ヶ餅と云うこと、ここに居る婦どもが知った中。
田畝の鼠が、蝙蝠になった、その素袍ひらつかいたかて、今更隠すには当らぬやて。
かえって卑怯じゃ。
遣ってくれい。
が、聞く通り、ちゃと早手廻しに使者を立てた、宗八が帰っての口上、あの通り。
残念な、猿太夫は斃ちたとあるわい。
唄なと歌え、形なと見せおれ。
何吐す、」
と、とりなしを云った二三人の年増の芸妓を睨廻いて、
「やい、多一!」
二十七
「致します、致します。」
と呼吸を切って、
「皆さん御免なさりまし。」
多一はすっと衣紋を扱いた。
浅葱の素袍、侍烏帽子が、丸官と向う正面。