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なんぽうゆうしん
南方郵信
中村 地平
Read 南方郵信 (なんぽうゆうしん) by 中村 地平 (なかむらちへい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 20,899 characters · 42 screens
黄色い夏蜜柑の花が、祠の屋根に散りかかる季節になると、一年に一度の氏神様のお祭りがある。その日になると、旦那の家では赤飯の握り飯をつくり、祠にはこんで、集まって来た子供たちに配るしきたりである。そのお祭り日が近づいてきたが、祠が古くなって朽ちているので、新しいのととりかえなければならない。木肌の匂いがぷんぷんする新しい祠が、これから蜜柑畑に運ばれるところであった。
荷馬車の頭にはトヨがつながれている。昔は共進会で、競馬馬として褒状を貰ったこともある彼女も、今では時折りではあるが、荷馬車が必要になると、こうして駄馬として使用されることもあるのである。
蜜柑畑には、源吉爺さんと一緒に三太も行くことになった。座布団の敷いてある窮屈な祠のなかに、爺さんは三太を抱きあげて坐らしてくれた。
トヨの手綱は例によって爺さんがにぎり、賑かな声に見送られて、三太の馬車は門を出た。
馬車が町なみを外れて、田圃径にさしかかると、とたんに暖かい風が、むっとするほど菜種の匂いや、黒土の香りやを三太の顔に吹きつけてくる。
「ひとつ、速いところをやらかしますかな」
それまでのん気そうに鼻唄をうたいながら歩いていた爺さんは、ひらりと身軽そうに御者台にとび乗った。