Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

なんぽうゆうしん

南方郵信

中村 地平

Read 南方郵信 (なんぽうゆうしん) by 中村 地平 (なかむらちへい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 20,899 characters · 42 screens

Aozora Bunko

爺さんが伝馬船に乗り移って、静かな流れのなかに釣糸を垂れると、お浜は柳の樹の蔭にかがみこむ。そういう時、爺さんは大抵熱心に川面を覗きこんでいるからいいが、若しふっとお浜の方をふりかえったら、流石に面をそむけるにちがいない。お浜は両股を半びらきにして、白い太ももの奥まで覗かせていることがあるからである。しかし、お浜はまるでそういうことには無関心に、じっと釣糸を見つめている。なにか物を見つめている時、お浜の眼はけだものの眼のように光を帯びている。

爺さんはお浜に無駄口をたたく。

「わりゃ、どこでうまれたんけ」

するとお浜はにやにや笑いだして、無愛想に答える。

「わしゃ知らん」

「父さんはどこに居りゃるのけ」

「知らん」

「姉さんはどこに行きやったのけ」

「知らん」

爺さんの質問にお浜は殆んど満足な答をすることがない。しかし、爺さんはこうしてお浜と無駄口をたたいているだけで、まるでほんとうの愛娘とむつみあっているように、心が楽しいのである。一丁ばかり下流に高くそそりたっている木橋には、漸く人通りが繁くなり、野菜や木炭やを町へはこぶ駄馬の蹄の音が、橋梁からカッカッとひびきわたってくる。