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さんぐうがえり
参宮がえり
田中 貢太郎
Read 参宮がえり (さんぐうがえり) by 田中 貢太郎 (たなかこうたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 7,325 characters · 15 screens
「すぐ戻って来いよ」
また父親の声がした。忰はもう返事をせずに崖をあがって往った。崖の石の上には微月の光のような微白い光があった。
すぐ燈の明るい家が来て二三人の人声がしていた。それは酒に酔うているらしい声であった。忰は己の舟の船頭の来ている家でないかと思ったが、それ以上に好奇心は起らなかった。
忰の心は女の方へ往った。彼は舟が陸へ着いた比からみょうにからまって来た女の素振をはっきり心に映していた。眼、眉、脣、皆意味のあるものであった。彼はどうかして女と二人で話したいと思った。あの伯父と兄はまだ暫く帰らないであろうから、父親さえ早く寝てくれるなら話はできると云う考えが浮んで来た。
忰はそのまま後に引返して、でこぼこの石高路をおりて往った。蟇の蹲ったように見える小屋の傍を廻っておりて往くと、もう舟のある処であった。忰は足を止めて舟の中を見た。手燭の光が微に胴の間に見えているのみで父親は寝たのか姿は見えなかった。
橋板に軽く跫音がしてこっちへ来る者があった。忰は心をどきどきさして立っていた。その眼に白い女の顔が見えて来た。忰は何か云おうと思ったが云えなかった。