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こきんしゅうまきのご
古今集巻之五
山本 周五郎
Read 古今集巻之五 (こきんしゅうまきのご) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 21,482 characters · 43 screens
ひどくあけすけな話なのだ。主人の留守をいいことにして、店の者たちが酒肴を並べ、夜の十時ごろまで騒いでいた。女だと思ってばかにしている、お袖は怒って階下へおりていった。そのとき廊下で、その手代とすれちがい、若い手代の躯から発散する、強い躰臭に触れたのだ。彼は手洗いにゆくところで、お袖は廊下に立って待っていた。彼の躰臭は単に匂ったばかりでなく、お袖の全身に触れ、肌にしみとおった。お袖は膝ががくがくするほどふるえ、それは自分が怒っているためだと思った。彼が戻って来、お袖は彼を二階へ呼びあげた。もちろん叱るつもりだったが、二階へあがり、向きあって坐るとものが云えなくなり、躯のふるえがもっとひどくなった。それからあとのことはわからない、お袖は「気が狂うかと思った」と云った。「耳も聞えなくなり眼も見えなくなった」自分の意志とはまったく無関係に、手や足や口が勝手な動作をした。あとで見ると、若い手代の頸や肩に歯形が残り、背中には幾筋もみみず腫れができて、血を滲ませていた。ひかされたのが十七だから、むろん男を知らなかったわけではないし、木綿問屋の主人とは八年もいっしょだったけれども、そういう感じを味わったのはそのときが初めてであった。