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こどものかなしみ
号外・少年の悲哀 他六篇
国木田 独歩
Read 号外・少年の悲哀 他六篇 (こどものかなしみ) by 国木田 独歩 (くにきだどっぽ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 28,584 characters · 59 screens
小川の末はまもなく入り江、潮に満ちふくらんでいる。船板をつぎ合わしてかけた橋の急に低くなったように見ゆるのは水面の高くなったので、川やなぎは半ば水に沈んでいる。
堤の上はそよ吹く風あれど、川づらはさざ波だに立たず、澄み渡る大空の影を映して水の面は鏡のよう。徳二郎は堤をおり、橋の下につないである小舟のもやいを解いて、ひらりと乗ると、今まで静まりかえっていた水面がにわかに波紋を起こす。徳二郎は、
「坊様早く早く!」と僕を促しながら櫓を立てた。
僕の飛び乗るが早いか、小舟は入り江のほうへと下りはじめた。
入り江に近づくにつれて川幅次第に広く、月は川づらにその清光をひたし、左右の堤は次第に遠ざかり、顧みれば川上はすでに靄にかくれて、舟はいつしか入り江にはいっているのである。
広々した湖のようなこの入り江を横ぎる舟は僕らの小舟ばかり。徳二郎はいつもの朗らかな声に引きかえ、この夜は小声で歌いながら静かに櫓をこいでいる。潮の落ちた時は沼とも思わるる入り江が高潮と月の光とでまるで様子が変わり、僕にはいつも見慣れた泥臭い入り江のような気がしなかった。南は山影暗くさかしまに映り、北と東の平野は月光蒼茫としていずれか陸、いずれか水のけじめさえつかず、小舟は西のほうをさして進むのである。