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めいじんじごく
名人地獄
国枝 史郎
Read 名人地獄 (めいじんじごく) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 149,286 characters · 301 screens
ひどくきさくな調子であった。
「へい、銚子まで参ります」
「うん、そうか、銚子までな」こういうと武士は坐り込んだが、それからじっと平八を眺め、「なんに行くな、え、銚子へ?」
「へい、いえちょっと、仕事の方で。……それはそうとお武家様も、やはり銚子でございますかな?」
「いやおれはすこし違う」武士は変に笑ったが、「ところでお前は何商売だな?」
「へい、船大工でございます」こうはいったが平八は、気味が悪くてならなかった。
「なに船大工? 嘘をいえ」武士はいよいよ変に笑い、「これ、大工というものはな、物を見るのに上から見る。ところがお前は下から見上げる。アッハハハ、これだけでも異う。どうだ、これでも大工というか?」
これを聞くと平八は「あっ、しまった」と胸の中でいった。武士の言葉に嘘はない。すべて大工というものは、棟の出来栄へまず眼をつけ、それからずっと柱づたいに、土台の仕組みまで見下ろすものであり、それが万事に習慣づけられ、人を見る時には頭から眺め、足に及ぼすものなのであった。これに反して与力、同心、岡っ引きなどというようなものは、何より先に足もとを見、その運びに狂いがないかを、吟味するのに慣らされていた。