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めいくんただゆき

名君忠之

夢野 久作

Read 名君忠之 (めいくんただゆき) by 夢野 久作 (ゆめのきゅうさく) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 15,683 characters · 32 screens

Aozora Bunko

「コレコレ。勿体ない。お墨付の上に……」

と尾藤内記が慌てて取上げようとした。

「サアサア。有難くお暇申上げい」

と淵老人が催促したが、忠之が手をあげて制した。

「ああ……棄ておけ棄ておけ。苦しゅうない。……コレコレ小僧。見苦しいぞ……何を泣くのじゃ。まだ何ぞ欲しいのか……」

「お祖父様……」

と与一が蚊の泣くような声を洩らした。

「ナニ。お祖父様が欲しい」

与一は簡単にうなずいた。

「アハハハハハハハハハ……」

「オホホホホホホホホ……」

という笑い声が、お局じゅうに流れ漂うた。

「アハハハ。たわけた事を申す。そちの祖父は腹切って失せたではないか。……のう。そちが詰腹切らせたではないか」

「お祖父様にこの絵が……」

「ナニ。祖父にこの絵を見せたいと云うか」

肩を震わしてうなずいた与一は、ワッとばかりに絵の上に泣き伏した。

「コリャコリャ、勿体ない。御直筆の上に……」

と淵老人が与一を引起しかかった。

「棄ておけッ」

と忠之が突然に叱※(「口+它」、第3水準1-14-88)した。何事がお気に障ったか……と思う間もなく、厚く襲ねた座布団の上から臂を伸ばした忠之は、与一の襟元を無手と引掴んだ。