Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
るそんのつぼ
呂宋の壺
久生 十蘭
Read 呂宋の壺 (るそんのつぼ) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 18,375 characters · 36 screens
二十歳ばかりの一人の安南人はすごい形相で見張台を見あげていたが、あきらめて、はるか向うの前帆柱の見張台に上って行った。
船はいぜんとしてすこしずつ沈下していたが、帆柱下、十尺ほどのところまで沈むと、どうしたのか、それでもう沈まなくなった。
白波をたてて荒れ狂う海の上、蠅取紙にとられた蠅のように、びっしりと人間が貼りついた帆柱が二本、あわれなようすで突き出ている。汐の流れでもあるのか、水の中に沈んだ船体の偏揺につれて、帆柱が大きく傾く。そのたびに何人かが海にこぼれ落ち、二、三度、藻掻いただけで、あっけなく波に嚥まれてしまう。
月影がさしかけたが、それも束の間のなぐさめで、真夜中近くになると、風が吹きつのり、十尺もあるような大波が寄せてきては、ものすごい勢いで帆柱にうちあたった。
十五日の朝がきた。
すくなくとも六十人以上の人間が繩梯子に縋りついていたはずだが、朝になってみると、何人というほども残っていなかった。
船体は波の下に沈んだまま、汐に引かれるように西のほうへ流れている。波と風の中でその日も終った。
十六日の午後、だしぬけに風がやんで、雲切れした雲の間から、灼くように太陽が照りつけ、誰も彼れも咽喉の乾きに悩まされた。