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うたのたてやましんじゅういっきょく
唄立山心中一曲
泉 鏡花
Read 唄立山心中一曲 (うたのたてやましんじゅういっきょく) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 30,835 characters · 61 screens
実はね、媽々衆、ああ見えて、浮気もんでね、亭主は旅稼ぎで留守なり、こちらのお若い方のような、おッこちが欲しさに、酒どころか、杯を禁っておりますんでね。はッはッはッ。」
階子の下から、伸上った声がして、
「馬鹿な事を言わねえもんだ。」
と、むきになると、まるだしの田舎なまり。
「真鍮台め。」と言った。
「……真鍮台?……」
聞くと……真鍮台、またの名を銀流しの藤助と言う、金箔つきの鋳掛屋で、これが三味線の持ぬしであった。面構でも知れる……このしたたかものが、やがて涙ぐんで……話したのである。
三
「私はね、旦那。まだその時分、宿を取っちゃあいなかったんでございます、居酒屋、といった処で、豆腐も駄菓子も突くるみに売っている、天井に釣した蕃椒の方が、燈よりは真赤に目に立つてッた、皺びた店で、榾同然の鰊に、山家片鄙はお極りの石斑魚の煮浸、衣川で噛しばった武蔵坊弁慶の奥歯のようなやつをせせりながら、店前で、やた一きめていた処でございましてね。
ちょっと私の懐中合と、鋳掛屋風情のこの容体では、宿が取悪かったんでございますよ。というのが、焼山の下で、パッと一くべ、おへッつい様を燃したも同じで、山を越しちゃあ、別に騒動も聞えなかったんでございますが、五日ばかり前に、その温泉に火事がありました。