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うたのたてやましんじゅういっきょく
唄立山心中一曲
泉 鏡花
Read 唄立山心中一曲 (うたのたてやましんじゅういっきょく) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 30,835 characters · 61 screens
「汽車が出ないと向うへは渡られませんよ。」
「成程。線路を突切って行く仕掛けなんです。」
やがてむらむらと立昇る白い煙が、妙に透通って、颯と屋根へ掛る中を、汽車は音もしないように静に動き出す、と漆のごとき真暗な谷底へ、轟と谺する……
「行っていらっしゃいまし……お静に――」
と私はつい、目の前をすれすれに行く、冷たそうに曇った汽車の窓の灯に挨拶した。ここへ二人きり置いて行かれるのが、山へ棄てられるような気がして心細かったからである。
壇はあるが、深いから、首ばかり並んで霧の裡なる線路を渡った。
「ちょっと、伺いますが。」
「はあ?」
手ランプを提げた、真黒な扮装の、年の少い改札掛わずかに一人。
待合所の腰掛の隅には、頭から毛布を被ったのが、それもただ一人居る。……これが伊勢だと、あすこを狙って吹矢を一本――と何も不平を言うのではない、旅の秋を覚えたので。――小村さんは一旦外へ出たが、出ると、すぐ、横の崖か巌を滴る、ひたひたと清水の音に、用心のため引返して、駅員に訊いたのであった。
「その辺に旅籠屋はありましょうか。」
「はあ、別に旅籠屋と言って、何ですな、これから下へ十四五町、……約半道ばかり行きますと、湯の立つ家があるですよ。