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あづまばし

問はずがたり・吾妻橋 他十六篇

永井 荷風

Read 問はずがたり・吾妻橋 他十六篇 (あづまばし) by 永井 荷風 (ながいかふう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 75,586 characters · 159 screens

Aozora Bunko

今年もやがて冬至の節になろうとしている。

わたくしには――現在のわたくしには、このごろの暮方が悲しく思われて堪えられない。

この家の窓にさす冬の日の暖なうちに、手先の冷える寒さの来ない中に、紙一枚でも多く胸にある事をかいて置きたいと思うからだ。海辺の宿りを去って町の家にかえれば、寒さは忽ち筆持つことを許すまいと危ぶむからだ。老の身には若き人のように来る年の春を待つ余裕がない。慾張の婆が明日の命を知らず爪に火をともして銭を数えるように、わけもなく筆が取りたいのだ。読残した書物が読みたくてならないのだ。何の為だ。何の為にもならない事を知っていながら、追われるようにあせっているのだ。老いて後、寸陰を惜しむ心ほど、思えば我ながら浅ましく悲惨なものはない。

わかかりし日を、如何にして送ったか。師と親とは教えたり戒しめたりしなかったか。後悔と慚愧とは虱の如く身をさいなむ。

迷蔵戯する子供の声は、小鳥の声と共にもう聞えない。小鳥も子供も安んじて明日の日を待つのだろう。雨の降る日のあることも今からは予想せずに。

○

日は暮れてしまった。何も見えなくなった。