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あづまばし
問はずがたり・吾妻橋 他十六篇
永井 荷風
Read 問はずがたり・吾妻橋 他十六篇 (あづまばし) by 永井 荷風 (ながいかふう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 75,586 characters · 159 screens
いつでも取りにおいでなさい。
福井 はい。後程取りに参ります。
ト医者を送りながら共に下手に入る。鈴代外出の支度をする。松田シャツのボタンを掛けながら下手奥より出で、
松田 もうへとへとだ。ひどい目にあった。(トどびんの茶をのみ)もう出掛ける支度か。
鈴代 ネエ。松田兄さん。今夜吉原の方へ流して行きたいわ。この正月だったわね。あれっきり一度も行かないから。
松田 そうだったね。戦争前にゃ吉原は賑だったぜ。見せたいようだった。三月になると仲の町は桜の花盛り。それから後は花菖蒲、秋になると菊の花だ。両側ともずっとお茶屋の二階。芸者が上っている。新内の流が通るね。声色屋が来る。ボアン。ええお二階のお客さま。播磨屋。高島屋。ゆうべも宿で寝もやらず。……菊見がてらに里の露。濡れて見たさに来て見れば、案に相違の愛想づかし。
鈴代 あら。三亀松はだしだわ。
松田 おいらん。それじゃアつれなかろうぜ。
ト福井心配そうな様子にて下手より出る。
鈴代 兄さん。早く支度してよ。今日は吉原へ行って見ましょうよ。
福井 たまにゃ吉原もいいだろう。だがね。鈴代。すこし話があるんだ。おれの言うこと聞いてくれないか。