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とさのくにばしら
土佐の国柱
山本 周五郎
Read 土佐の国柱 (とさのくにばしら) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 17,375 characters · 35 screens
そして、斧兵衛が云われるままに上段間際まで膝行すると……おち窪んだ眼を静かに向けて、
「今宵は、……其方と悠くり話そうと思ったので、態と一同に遠慮をさせたのだ。其方と差向きで話の出来るのも、恐らく是がしまいであろう。……顔を見せい」
斧兵衛はすばやく泪を押拭ってから、平伏していた顔をあげた。一豊は暫くのあいだ、昵とそれを見戍っていたが、
「其方もじじいになったな」
としみ入るような声で云った。
「思えば其方とは長い宿縁であった。主従そろって芋粥を啜った尾張時代から、生き残っているのは其方一人だ。……覚えて居るか、安土の馬寄せの日のことを」
「まことに、昨日の如く覚えまする」
一豊がまだ木下秀吉の配下であった頃、その妻が鏡筥の中から金拾両を出して、良人に名馬を買わしめた、安土城馬寄せが行われたとき、これが信長の眼に留って、一豊出世の端緒を成した話は有名である。
「あの時分は苦しかったな。……越前攻めの折などは、武具が足りなくて、其方などは竹槍へ渋を塗って持ち居ったぞ。……それが、今ではこうして従四位下の土佐守、二十四万石あまりの主となり、芋粥を啜らせた其方にも、どうやら人並のことがしてやれるようになった。