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きょうかいなきさべつ

境界なき差別

丘 浅次郎

Read 境界なき差別 (きょうかいなきさべつ) by 丘 浅次郎 (おかあさじろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 8,992 characters · 18 screens

Aozora Bunko

昔の支那や日本の画では明らかな線をもって雲の輪廓を画いてあるが、実物を見れば、無論かかるものはない。富士山へでも登れば、自身が幾度か雲の中に入り、また雲から出るが、いつも知らぬ間に次第に出入するだけで、けっして今から雲に入るとか、いま雲を出たとかいい得るような判然たる境界はない。雲は掴え難いものの例としていつも引き合いに出される物ゆえ、これは特別であると考える人があるかも知れぬが、他の物でも理窟は全くこれと同じである。例えば紙の裁ち切った縁は一直線をなして、境界がきわめて判然してあるごとくに見えるが、これを千倍の顕微鏡で見れば、多数の繊維が入り乱れてあたかも竹藪のごとくであるゆえ、どこまでが紙の領分で、どこからが紙の領分以外であるか全く判然せぬ。それゆえ、もし人間が今より何千分の一か、何万分の一かのきわめて微細な身体を持っていたと想像すれば、紙の縁を通過するときには、あたかも普通の人間が、雲に出入するときと同様で、とうてい明瞭な境界を見ることはできぬであろう。地図を見れば島の周囲を明らかな沿岸線で示してあるが、実地浜辺へ出て見ると、浪が寄せては返しているゆえ、陸の領分がどこまで達し、どこで終るかを示すことはできぬ。