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ぼちてんぼうてい
墓地展望亭
久生 十蘭
Read 墓地展望亭 (ぼちてんぼうてい) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 46,485 characters · 93 screens
死が待ちかねて、海から手をあげて催促する。……そんなに急ぐにはあたらない。もうしばらく、そこで待っていろ。どっちみち、長い時間ではない。明日まで、明日まで……。
竜太郎はソルベットを啜りながら、自分の最後の瞬間を味わうために、眼をとじる。
岩が蒼黝い影をおとす海。……拳銃の上にチカチカとはねかえる明るい陽の光。……煙のように空に噴きつける血しぶき。……それから……。
竜太郎は孤児だった。父は巨額の財産を残して早く死に、竜太郎は幼いうちに慈悲も憐憫もない冷淡な金の中に、たったひとり取り残されることになった。
窮極のところ、金の圏囲内で行われることは、何によらず、そう大して面白味のあるものではなく、放蕩にしろ濫費にしろ、やるだけやって見ると、あとには手のつけられない虚無感と倦怠が残るだけのことである。
愛情……は、人間の愛情も厚意も、竜太郎のような境遇の人間にとっては、そのまま通用しない。煤色をした懐疑を深めるのに役立つだけのことである。今迄のさまざまな経験で竜太郎は、はっきりとそれを是認した。
竜太郎は、無味索漠たる空々しい人生の中で、誰れからも愛されるあてもなく、誰れを愛する自信もなく、長い間ひとりぼっちで生きて来た。