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なつのそうれつ
夏の葬列
山川 方夫
Read 夏の葬列 (なつのそうれつ) by 山川 方夫 (やまかわまさお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 60,161 characters · 122 screens
山口は、ぼくがそんな噂を聞いたのを知っていただろうか? たぶん、知らなかった、とぼくは思う。ついに、ぼくらはそのことについては一言も触れないままで終った。
でも、たとえまず家を建てようという一家の方針とはいえ、胸を病んでいる十五歳の少年にまで昼食を抜かせるとは、ぼくの「常識」にはなかった。そこにはなにか特別の事情があるのかもしれないし、山口は山口で、またべつの考えからそうしていたのかもしれない。
ぼくがあえてそのことに触れずにすませたのは、はっきりいって、そういう山口の一家、あるいは山口個人の特別な不幸につき、知りたくも感じたくもなかったせいだ。他人のどうしようもない不幸は、そのぼくにはどうしようもないということじたいで、ぼくを重苦しくいやな気分に沈める。ぼくは他人には、ぼくをはじきだす幸福な壁のほかは、なにひとつ見たくはなかったのだ。
だから、ぼくは、とにかく山口の家のその家風は、ぼくなどには遠く思い及ばぬおそろしい個性をかくしているのだ、とだけ思って、それから先のことは考えないことに決心した。ぼくはそれを実行した。
こうして、山口との秘密の習慣には、なんの変化も起きなかった。