Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
なつくさせんき
夏草戦記
山本 周五郎
Read 夏草戦記 (なつくさせんき) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 21,107 characters · 41 screens
娘はそれを見ると「ではちょっと拝んでいきましょうね」と云って原のなかへはいっていった。……二尺あまり盛りあげた土の上に、表へただ名号だけ書いて、ほとけのぬしの名のない小さな墓標が立っている、娘はあたりに咲いている夏草の花を手折ってその墓に供え、しずかに膝まずいて合掌した。
「あの方ではないでしょうけれど、あの方とごいっしょにいらしった方ですのね、どうぞ成仏あそばしますように……」
かなりながいあいだ、口のうちで唱名念仏していたが、やがて娘は立ちあがって膝をはたき、そっと目礼をして道へ出た。子供たちは興を失ったものか、もう向うのほうで蜻蛉を追うのに夢中である。娘は背負った包みの結びめを直し、いかにも痛そうに右足をひきながら、ふたたびとぼとぼと北へ向ってあるきだした。小谷隊のあとを追って、……そのたより無げな足どりをせきたてるように、ときおり道から埃を巻きたてる風が、草原のなかにある墓をも吹きはらっていた、娘の供えたのは夏草の名もなき花である、それがなんと似つかわしかったことだろうか、墓のあるじもついにおのれの名は立てなかったのだから。……一年と経たぬうちに墓標は倒れるであろう、盛りあげた土はすぐ崩れるに違いない、しばらくすれば元のように夏草が生い繁って、そこに墓のあったことさえ忘れられてしまう、だが、そうして