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やしゃがいけ
夜叉ヶ池
泉 鏡花
Read 夜叉ヶ池 (やしゃがいけ) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 27,689 characters · 56 screens
弥太兵衛爺に、鐘の所謂を聞きながら、夜があけたら池まで案内させる約束で、小屋へ泊めて貰った処。
その夜、丑満の鐘を撞いて、鐘楼の高い段から下りると、爺は、この縁前で打倒れた――急病だ。死ぬ苦悩をしながら、死切れないと云って、悶える。――こうした世間だ、もう以前から、村一統鐘の信心が消えている。……爺が死んだら、誰も鐘を鳴らすものがない。一度でも忘れると、掌をめぐらさず、田地田畠、陸は水になる、沼になる、淵になる。幾万、何千の人の生命――それを思うと死ぬるも死切れぬと、呻吟いて掻く。――虫より細い声だけれども、五十年の明暮を、一生懸命、そうした信仰で鐘楼を守り通した、骨と皮ばかりの爺が云うのだ。……鐘の自から鳴るごとく、僕の耳に響いた。……且は臨終の苦患の可哀さに、安心をさせようと、――心配をするな親仁、鐘は俺が撞いてやる、――とはっきり云うと、世にも嬉しそうに、ニヤニヤと笑って、拝みながら死んだ。その時の顔を今に忘れん。
が、まさか、一生、ここに鐘を撞いて終ろうとは思わなかった。丑満は爺が済ました、明六つの鐘一度ばかり、代って撞くぐらいにしか考えなかった。