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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

Read 夜明け前 (よあけまえ) by 島崎 藤村 (しまざきとうそん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 205,629 characters · 408 screens

Aozora Bunko

日ごろ謙譲な性質で、名聞を好まない景蔵のような友人ですらそうだ。こうなると半蔵もじっとしていられなかった。

父は老い、街道も日に多事だ。本陣問屋庄屋の仕事は否でも応でも半蔵の肩にかかって来た。その年の十月十九日の夜にはまた、馬籠の宿は十六軒ほど焼けて、半蔵の生まれた古い家も一晩のうちに灰になった。隣家の伏見屋、本陣の新宅、皆焼け落ちた。風あたりの強い位置にある馬籠峠とは言いながら、三年のうちに二度の大火は、村としても深い打撃であった。

翌文久元年の二月には、半蔵とお民は本陣の裏に焼け残った土蔵のなかに暮らしていた。土蔵の前にさしかけを造り、板がこいをして、急ごしらえの下竈を置いたところには、下女が炊事をしていた。土蔵に近く残った味噌納屋の二階の方には、吉左衛門夫妻が孫たちを連れて仮住居していた。二間ほど座敷があって、かつて祖父半六が隠居所にあててあったのもその二階だ。その辺の石段を井戸の方へ降りたところから、木小屋、米倉なぞのあるあたりへかけては、火災をまぬかれた。そこには佐吉が働いていた。

旧暦二月のことで、雪はまだ地にある。半蔵は仮の雪隠を出てから、焼け跡の方を歩いて、周囲を見回した。