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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
Read 夜明け前 (よあけまえ) by 島崎 藤村 (しまざきとうそん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 205,629 characters · 408 screens
努力とには、彼とても頭が下がったが。
終日静座。
いつのまにか半蔵の心は、しばらく離れるつもりで来た馬籠の宿場の方へも行った。高札場がある。二軒の問屋場がある。伏見屋の伊之助、問屋の九郎兵衛、その他の宿役人の顔も見える。街道の継立ても困難になって来た。現に彼が馬籠を離れて来る前に、仙台侯が京都の方面から下って来た通行の場合がそれだ。あの時の仙台の同勢は中津川泊まりで、中通しの人足二百八十人、馬百八十疋という触れ込みだった。継立ての混雑、請け負いのものの心配なぞは言葉にも尽くせなかった。八つ時過ぎまで四、五十駄の継立てもなく、人足や牛でようやくそれを付け送ったことがある。
こんなことを思い浮かべると、街道における輸送の困難も、仙台侯の帰東も、なんとなく切迫して来た関東や京都の事情と関係のないものはない。時ならぬ鐘の音が馬籠の万福寺からあの街道へがんがん聞こえて来ている。この際、人心を善導し、天下の泰平を祷り、あわせて上洛中の将軍のためにもその無事を祈れとの意味で、公儀から沙汰のあった大般若の荘厳な儀式があの万福寺で催されているのだ。手兼村の松源寺、妻籠の光徳寺、湯舟沢の天徳寺、三留野の等覚寺、そのほか山口村や田立村の寺々まで、都合六か寺の住職が大般若に集まって来ているのだ。