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おおえどおうごんきょう
大江戸黄金狂
野村 胡堂
Read 大江戸黄金狂 (おおえどおうごんきょう) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 26,754 characters · 53 screens
が、八月十五日夜の月の出潮を合図に、あの辻堂にて親の敵が討ちたいと申す、――この上申上げることは御座らぬ、武士の最後、お妨げ下さるな」
山浦丈太郎は雲水をかき退けるように、ツイと出るのです。物ごしの静かさ、恰幅の見事さ、人柄の上品さ、雲水空善は、長大息して、この死にに行く武士を見送るばかりです。
「武門の意地とあらば、最早お止め申さぬ、御片付けは出家の役、いずれ骨を拾って進ぜましょう、南無」
空善は法衣の袖を合せて何やら念ずるのです。
「さらば、頼み入る」
一礼して山浦丈太郎は、箱根に馴れて健やかな足取り、果し合いの場に臨むたしなみには無いことですが、岩を踏み越えて、一気に辻堂の方へ登ります。
が、辻堂の前にたどり着いた丈太郎は、まだ誰も来て居ない事に気が付くと、捨石に腰をおろして、暮れ行く相模灘を眺めやりました。黄金色の夕陽を浴びた山々、その先に碧を湛えた海、すべてが此世とも覚えぬ美しさの裏に、次第に明るさを失って、東の空から、薄紫の夕陽を破って、大きな名月が、ツ、ツ、ツと豊かな姿を現わすのです。
「山浦丈太郎、よくぞ参ったな」
辻堂の後、夕闇を染め出した中から、ヌッと出て来た男の顔は、覚悟を決めて居た山浦丈太郎を驚かすに充分でした。