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だいぼさつとうげ
大菩薩峠1
中里 介山
Read 大菩薩峠1 (だいぼさつとうげ) by 中里 介山 (なかざとかいざん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 200,314 characters · 398 screens
「それは、どういうわけでござんしょう」
「別にわけはない」
この不思議な人の言うこともすることも、いちいち、この世の人ではないようです。
「承知致しました。そのお子様は、お母さんと御一緒に今お国においでなさるのでございますか」
「いや、そうでない、母という奴、拙者には女房じゃ、それはいない」
「お母さんも、おなくなりなさいましたので?」
「うむ――俺が殺した」
「まあ、あなた様が手にかけて!」
「手にかけて殺した」
「なんという惨いこと……」
「芝の増上寺の松原で、松の樹へ縛っておいて、この刀で胸を突き透した」
武蔵太郎を取り上げた机竜之助は、やにわに立ち上って、眼が吊り上る。
「あれ――危ない」
立ち上った竜之助は、よろよろと足がよろめくのを踏み締めて、颯と刀の鞘を外した。
「誰か来て下さい!」
お松は、この時、はじめて絶叫することができた。
「騒ぐな!」
武蔵太郎は閃々として、秋の水を潜る魚鱗のようにひらめく。
「あれ危ない、誰か来て下さい」
「騒ぐな!」
竜之助は、刀を横より斜めに振って、切先が襖へ触れると、ハラリハラリ御簾の形はくずれる。
「お武家様が気が狂いなされた!」