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だいぼさつとうげ
大菩薩峠1
中里 介山
Read 大菩薩峠1 (だいぼさつとうげ) by 中里 介山 (なかざとかいざん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 200,314 characters · 398 screens
「御免」
案内もなく入り込んで来たのは、髻を高く結び上げて、小倉の袴を穿いた逞しい浪士であります。手には印籠鞘の長い刀を携えて、
「番頭どけ――」
竜之助の前へ然と坐って、
「初めて御意得申す」
「何か用事でござるか」
「さきほどから再三、宿の人を以て申し入れる通り、我々はごらんの通りの多勢じゃ、お見受け申せば貴殿はお一人、どうかこの席を多勢の我々に譲っていただきたい」
「その儀ならばお断わり申す」
「ナニ、断わる?」
印籠鞘の武士は眼に角を立てて、
「女中や番頭どものかけ合いとは事変り、武士が頼みの一言じゃ、気をつけて挨拶を致せ」
竜之助は武士の方には取合わないで、番頭の方を見て、
「番頭殿、この気狂いを、あっちへ連れて行ってくれ」
印籠鞘は激昂して、
「気狂いとは何だ……気狂いとは聞捨てならん」
「まあまあ、そこのところをひとつ――どうかそういうわけでございますから旦那様、多勢に無勢でどうもはや、どうかお引移りを願いたいもので……」
番頭はてんてこまいをはじめる。
「汝れは間諜じゃ、幕府の犬であろうな」
印籠鞘の浪士は竜之助に詰め寄せる。
「やれやれ! やっつけろ!」