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だいぼさつとうげ
大菩薩峠1
中里 介山
Read 大菩薩峠1 (だいぼさつとうげ) by 中里 介山 (なかざとかいざん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 200,314 characters · 398 screens
さりとて、そこを通らず露の竹藪を横切るのは考えものだ。
「金蔵さん……」
泣き伏していたような女が面を上げる。ああ、その声は……竜之助は、立ってしまった。幸い、そこに地蔵堂の蔭がある。
「お豊さん」
若い男の声、これも聞いたことのあるような声。
「金蔵さん……わたしは覚悟をしました」
女は覚悟をしましたと言う。覚悟とは何をいう。
竜之助は、この女あるが故に、大和に舞い戻ったのではないか。
若い男は、
「お豊さん、覚悟とは何だい」
「金蔵さん、わたしは、もう諦めてしまいました、わたしの身は、お前さんに任せてしまいます」
「ナニ、わしに任せる……それは真実か、お前は、わしと一緒に逃げてくれるか……」
歓ばしさに若い男の萎れた五体は跳ね起きて、女の肩へ手をかけて、
「よく言ってくれた、それは嘘ではあるまいな」
「とても、こうした身体でございます、その代り金蔵さん、決してほかの人を怨んで下さるな……」
「そうきまれば……お前さんさえその気なら、なんで人を怨もう。ああ嬉しい、わしの願いが叶った……こんな嬉しいことはない。お豊さん、これから直ぐに紀州へ逃げましょう、あのさっき話した通り、紀州の竜神というところへ逃げましょう、そこにはわしの親たちが温泉宿をやっている……ああ嬉しい」