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だいぼさつとうげ
大菩薩峠10
中里 介山
Read 大菩薩峠10 (だいぼさつとうげ) by 中里 介山 (なかざとかいざん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 285,635 characters · 558 screens
主膳は真顔で言いましたが、七兵衛でも聞いていた日には、さだめてくすぐったいことでしょう。
「御免なさい」
「人の屋敷へ入る時には、一応ことわって、許しを受けてからでなけりゃいかんぞ」
「もう、これきりしませんから、御免なさいまし」
「よし、そうしてお前たち、むやみにそうひっぱったって、凧は取れるもんじゃない、そう無茶にひっぱれば、凧が取れないのみならず、凧が破れる、凧が破れるのみならず、肝腎の植木が台なしになってしまう」
「御免下さい、もうしませんから」
「よし、わしが取ってやる」
主膳は、立って、縁へ出で、庭下駄をはいて下り立ち、上手に木を撓めて、丹念に、糸と、糸目とを小枝から外して、
「さあ、取れた。お前たち、糸をその辺のいいところで切れ」
「おじさん、有難う」
子供らは、おじぎもそこそこ、その凧を持って、丸くなって、逃げるように引上げて行く後ろ姿を、神尾主膳は飽かずに見送っておりました。
十九
主膳が、これからひとつ、子供を相手にして遊んでやろうという気になったのは、この時にはじまるのであります。
これは、主膳にとって善心のゆかりであるか、また一つの変った悪業の種となるかはわかりません。