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だいぼさつとうげ
大菩薩峠11
中里 介山
Read 大菩薩峠11 (だいぼさつとうげ) by 中里 介山 (なかざとかいざん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 368,567 characters · 720 screens
その途端、面の色を変えた茂太郎は、それでも幸いに般若の面が海の方へ落ちないで、砂の上へ飛んだものですから、ホッと安心して拾いにかかるのを、兵部の娘が横合いから取り上げてしまいましたから、茂太郎は、
「いけないよ、いけません、ほかのいたずらと違いますよ、もし、海の方にでも落ちて流れてしまってごらんなさい、かけがえが無いじゃありませんか」
心から恨めしげに、手をさしのべたが、兵部の娘は、それを高く差し上げて返しません。
茂太郎はよりかかって手を伸ばす、兵部の娘は反身になって、それをいよいよ渡すまいとする――そのすぐ後ろは海です。波がもう兵部の娘の踵を嘗めている。
「あぶないよ」
「あぶない!」
どちらが警告するのか知れません。
この時、轟然として、天地の崩れる音が起りました。
それと共に浜辺にいた村民漁夫たちが一時に仰天して、蜘蛛の子を散らすように走り出しました。つづいて殷々轟々と天地の崩れる音。天地の崩れるもすさまじいが、それは海に浮んだ黒船が、大砲を打ち出したものであります。
さすがの幼稚な石女木人のいさかいも、この音に驚かされないわけにはゆきません。