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だいぼさつとうげ
大菩薩峠16
中里 介山
Read 大菩薩峠16 (だいぼさつとうげ) by 中里 介山 (なかざとかいざん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 268,946 characters · 520 screens
ただ恐るべきは山路の険と、気象の変化、それだけなんでございましょう。では、わたくしはこれから出かけて参ります」
ここまで弁信は喋りまくって、また静かに、風のように廊下先から消えてしまったのを、お雪ちゃんは、とどめようとして、つかまえどころのないのに苦しみました。
七
弁信が帰るとまもなく、天候がにわかに変ってきました。
後ろの胆吹山が大きな鳴りを立てたかと思うと、さっと吹き下ろす風が千丈の枯葉を捲いて、原も、村も、里も、一度に裏葉を返す秋の色を見せました。
と見れば、比良ヶ岳、比叡山の上に、真黒な雲がかぶさり、さしも晴れやかに光っていた琵琶湖の湖面が、淡墨を流したように黝ずんできたのを認めました。
麓の方で、さしも物騒であった鳥の形も、人の気配も、いつのまにかすっかり消えてしまって、胆吹山おろしだけが、自分の頭の上でゴーッと鳴るのを聞くばかりです。
あまりの急激な天候の変化に、お雪ちゃんは悲しいような、怖ろしいような気分に襲われていると、つづいて山おろしが庭先の松の梢を伝って、見ゆる限りの野も山も、どよめき渡ると見る見る南近江から、伊勢と美濃へかけての天地が暗くなって行くのです。