Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
だいぼさつとうげ
大菩薩峠19
中里 介山
Read 大菩薩峠19 (だいぼさつとうげ) by 中里 介山 (なかざとかいざん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 319,771 characters · 617 screens
青年が懐かしいというのは、どういう意味かよくわからないが、多分、この青年には過去に於て江戸を懐かしがる何物もないけれど、これからの目的地として、懐かしがるべき理由が大いにあるというのでしょう。
六十
この青年と、かなりの長い談話をした後に、兵馬は、いざ別れようとして、
「君、福井へ帰るなら、一つ頼みたいことがある」
「何ですか、喜んで頼まれます」
「実はねえ」
と兵馬は、何と思ったか、自分のかぶっていた一文字の菅笠を取って、
「申し兼ねるが、君のその笠と、僕のこの笠と取換えていただけまいか」
「え、僕のこのみすぼらしい饅頭笠と、あなたのその菅笠と、無条件交換ですと、僕の方が大きに儲かります、それでいいですか」
「いいですとも、君、ひとつこの笠をかぶって福井へ帰って下さい、僕は君の笠をかぶって近江へ行きたい」
「傾蓋の志ってやつですか」
「いや、そういうわけでもない、必ずしも君に対する志というわけではないが、ところで、もう一つ、いま、拙者がその笠へ一筆書きますから、君はそれをかぶって福井へ着いたならば、その笠をそっくりひとつ、僕の名ざすところへ届けてもらいたいのだ」