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だいぼさつとうげ

大菩薩峠6

中里 介山

Read 大菩薩峠6 (だいぼさつとうげ) by 中里 介山 (なかざとかいざん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 185,112 characters · 362 screens

Aozora Bunko

駒井甚三郎は、その橋の欄干にしがみついている人影に提灯を差しつけて見ると、それもしかるべき、若いさむらいでありました。

前のは、ともかくも向う傷であったが、これは斬られて後に欄干にしがみついたのか、逃げ場を失うて欄干にしがみついたところをやられたのか、後ろ袈裟に、ザックリと思う壺に浴びせられて、二言ともなく息が絶えている形であります。その死物狂いで欄干へとりついたのが、木の枝にかじりついた蝉のぬけ殻と同じような形であります。

駒井は篤と提灯の光で、それを見届けた上に、なお徐ろに橋の上を進んで行くのであります。その進んで行く橋板の上はベットリと血だらけですから、ややもすればそれに辷って、足を浚われようとする間を選んで徐かに歩きました。

左には両国橋が長蛇の如く蜿蜒としている。右手は平右衛門町と浅草御門までの間の淋しい河岸で、天地は深々として、神田川も、大川も、水音さえ眠るの時でありました。

「駒井の殿様」

堪り兼ねたと見えて寅吉が、あとを慕うて来ました。

「お危のうございますよ」

駒井甚三郎は提灯を差し上げて、寅吉の方を照しましたけれど、その時は、もう来るなと言ってとめはしません。