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だいぼさつとうげ
大菩薩峠7
中里 介山
Read 大菩薩峠7 (だいぼさつとうげ) by 中里 介山 (なかざとかいざん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 242,044 characters · 477 screens
けれど、どこへ行ったか影さえ見えません。
これはお梅にとっては一大事で、南部表にしゅちんの鼻緒。鼻緒にも、蒔絵にも、八重梅が散らしてある。当人も自慢、朋輩も羨ましがっていたポックリを、半分持って行かれたから、口惜しがるのも無理はありません。みんな持って行かれたわけではない、半分は残っているのだけれど、下駄の半分ばかりは、残されたところで有難がるわけにはゆかない。
二階ではお角がおかしくもあるし、腹も立って、それでも、あの野郎、神尾の殿様が来るとか来ないとか、頼まれた用事もあってやって来たらしかったが、それをいい出す暇もなく逃げ出してしまった。こちらもなお聞きただしたいこともあったのに、かんしゃく紛れにとっちめて、薬が利き過ぎた。しかし、どのみち二三日たてば、ケロリとして出直して来る奴だと思いました。
おかしかったのはその翌日の朝、両国橋の女軽業のおちゃっぴイの一人が目の色をかえて、お角のしもたやへ飛び込んで来て、
「親方、大変です、梅ちゃんが心中をしてしまいました」
その声を聞きつけて挨拶に出たのが当のお梅でしたから、両人顔を見合わせて、これはこれはとあきれました。