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かのうせいのぶんがく
夫婦善哉
織田 作之助
Read 夫婦善哉 (かのうせいのぶんがく) by 織田 作之助 (おださくのすけ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 47,834 characters · 94 screens
なった。
むかし新聞屋(……というより外に適当な言葉も見当らぬが、お望みならば、新聞社の社長と言いかえても良い……)をしていた頃、さんざ他人の攻撃をして来た自分が、こんどは他人より手ひどく攻撃されるという、廻合せの皮肉さに、すこしは苦笑する余裕があっても良かりそうなものだのに、お前はそんな余裕は耳掻きですくう程も無く、すっかり逆上してしまって、自身まで出向いて、市中の書店を駈けずりまわり、古本屋まで買い漁ったというじゃないか。
思えば、気の小さい、そんな男のことなどをあばいた本など、たいして売れもしなかっただろうと、おれは思っていたが案に違って、誇張めいた言い方をすると、瞬く間に版を重ねて、十六版も出たという。お前は知るまいが、初版は千五百部で以後五百部ずつ版を重ねたのだ。
「――なぜ、こんな本が売れるのでしょう?」
と、出版屋も不思議がったくらいだが、不思議でもなんでもない。お前が買うから売れたのだ。出る尻から本が無くなるので、出版屋は首をひねりながら、ともかく増刷していたのだ。増刷の本が出ると、またお前が買い占める。出版屋はまた増刷する。……この売りと買いの勝負は、むろんお前の負けで、買い占めた本をはがして、包紙にする訳にも思えば参らず、さすがのお前もほとほと困って挙句に考えついたのが「川那子丹造美談