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しっちょうき
失蝶記
山本 周五郎
Read 失蝶記 (しっちょうき) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 22,072 characters · 44 screens
「真壁どの御免」
そして振向くところを首の根へ一刀、返す二の太刀で存分に胴を払いました。相手は提灯をとり落し、なにか叫びながら、片手を振り、よろめいてがくっと膝を突きました。
「藩ぜんたいのためです」と私は云いました、「どうぞお覚悟を願います」
相手はなおなにか叫び、手を振り、そうして、その手で頭巾を剥ぎ取りました。そのとき道の上で提灯が燃えあがり、頭巾をぬいだ相手の顔が見えました。そうです、それが杉永幹三郎だったのです。
「杉永、――」私は刀を投げだして駆け寄り、彼の肩をだき抱えました、「どうしておまえが、これはどうしたことだ、真壁綱ということだったぞ」
杉永はなにか云っています。私が斬りつけたときも、人違いだと叫んだのでしょう、おれだ、杉永だ、と叫んだ。なにか叫ぶのを私は見たのですから。もちろん彼には私がわかったでしょう、だからこそ抜き合せることもできず、おれだ、杉永だとけんめいに叫んだに違いありません。
「梓と打合せたんだ」と私は動顛しながら云いました、「真壁が密会するということで合図まできめてあった、いったいどうしてこんなことになったんだ」
杉永はなにか云っています。