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きだんクラブ〔せんごばん〕

奇談クラブ〔戦後版〕

野村 胡堂

Read 奇談クラブ〔戦後版〕 (きだんクラブ〔せんごばん〕) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 10,841 characters · 22 screens

Aozora Bunko

、死骸もわからずになるのかも知れないといった、恐ろしい予感と恐怖に、兎もすれば、沈み勝ちになるのを何うすることも出来なかったのです。

明日は早いから――と、親類達を帰した後、親子水入らずに別れを惜しんで、お菊が床へ入ったのはやがて子刻(十二時)近くになってからでした。

お隣にいる中村新八郎に、たった一と目別れを惜しみたい――と、思い乍らも、此時刻になっては、呼出す手段もありません。

フト、窓の戸にサラサラと笹の葉などの当るような音がします。お菊はそれを聴くと、夜の物のまま、床から脱け出して、雨戸をサッと開きました。それが若い二人の逢引の合図だったのです。

「新八郎さん」

「お菊さん」

二人は沓脱の上に立って、犇と抱き合って居りました。女の涙は男の襟を濡らし、男の温い息が、女の顔と前髪を撫でて居ります。

「お前は本当に、殿様のところへ行く気かえ」

「でも、新八郎さん」

「私を後に残して」

「でも」

二人は誘い誘われるように、庭の闇の中を裏木戸のところへ辿って居りました。其処には夜目にも白々と、大きい川が流れて居ります。

「死んでくれないか、お菊さん」

新八郎はもう一度お菊を抱き上げるように、その小さい耳に、恐ろしい囁きを吹き込みました。