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おんなごころのつよければ
女心の強ければ
豊島 与志雄
Read 女心の強ければ (おんなごころのつよければ) by 豊島 与志雄 (とよしまよしお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 47,011 characters · 94 screens
「雨が降れば、出て来ますよ。」
「こないだのような晩にでしょう。」
「あら。」
千代乃は睥むまねをして、そして笑った。
死体と沢蟹の話も、もう遠くなっていた。
突然、裏口の戸が激しく叩かれた。遠慮のない叩き方だった。
千代乃が立ってゆき、戸を開くと、辰さんが提灯をさげて佇んでいた。
「旦那が見えましたよ。いま、湯にはいっておいでだが、食事は、あちらか、こちらか、さて、どっちかな。なにか、御用はありませんか。」
家の中まで筒ぬけの大きな声だ。
千代乃はまた戸締りをして戻ってきた。
「柿沼さんですか。」
「そうなの。」
彼女は落着きはらって、猪口を取り上げ、飲んだ。
「いつも、ふいにやって来るのよ。だから、少しぐらい酔っていたって構やしないわ。」
だが、長谷川はさすがに落着けなかった。千代乃の様子が、太々しいとさえ思われた。黙りこんで、急いで酒を飲み、二階に上っていった。千代乃があとからついて来て、布団を敷いてくれた。
「あ、忘れていた。髪を結わなくちゃならないわ。」
長谷川の眼をじっと見て、指先の方を痛いほど握りしめた。
「おやすみなさい。」
彼女の長い散らし髪が、長谷川の眼の底に残った。