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おんなごころのつよければ
女心の強ければ
豊島 与志雄
Read 女心の強ければ (おんなごころのつよければ) by 豊島 与志雄 (とよしまよしお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 47,011 characters · 94 screens
一個の三浦千代乃とのことだ。
一人になって考えてみよう、と彼は思った。柿沼がたってしまえば、もう、どこへ行こうと、誰かに、或るいは自分の気持ちに、ここから逃げ出したと後ろ指をさされることもないのだ。
朗かとまではゆかず、悲壮めいた気持ちで、長谷川は林の中を歩き、渓流のほとりをさまよい、水車のそばに佇んだ。そして、本館へ湯にはいりに行った時、お上さんに、明日たつ旨を伝え、勘定書を求めておいた。
「まあ、左様ですか。何にもおかまいもしませんで……。」
善良なお上さんは、一晩泊りの客にも長逗留の客にも、同じような態度なのだ。
柿沼がたってしまうと、別館は以前通りの静けさに返ったが、千代乃はなにか苛ら立ち、そしてなにか思いつめてるようだった。
彼女は二階に長谷川の夕食を運んでき、酒も出してくれた。
「これはわたしから、お名残りのお酒です。大丈夫、柿沼の飲み残しではありませんから。」
ぶっつけに彼女は言った。
「では、あなたも少しお飲みなさい。」
「ええ、ほんの少し……。」
彼女は猪口を受けた。
だが、二人とも黙りがちだった。
「長谷川さん。」彼女はじっと彼の眼を見つめた。