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おんなごころのつよければ
女心の強ければ
豊島 与志雄
Read 女心の強ければ (おんなごころのつよければ) by 豊島 与志雄 (とよしまよしお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 47,011 characters · 94 screens
「沢蟹なら、むしろ、可愛いじゃありませんか。」
ところが、実際、いやなことがあったのである。
二キロばかり下手の、渓流に沿って、杉の密林がある。そこに、先月、死体が発見された。行き倒れか、服毒自殺者か、それは分らないが、もう半ば腐爛しかけていて、前夜雨が降り、ずぶ濡れになっていた。その死体に、沢蟹がいっぱいたかっていた。
「ほんとですか。蝿とか烏なら、死体にたかることもありましょうが、まさか、沢蟹が……。」
「おおぜいの人が見たんです。誰にでも聞いてごらんなさい、みんな知っていますよ。」
或るいはそんなこともあるかも知れない。あるとしたら、想像するだにいやな情景だ。半ば腐りかけてる濡れた死体に、沢蟹がうじゃうじゃたかっている……。
「思い出すと、いやーな気持ちですの。」
「いやな気持ちって……あなたも、見たんですか。」
「いいえ、聞いただけですけれど……。」
少し現実すぎる話だ。そんなことより、むしろ怪談の方が他愛なくてよかった。
酒を飲みながら、長谷川は怪談をもち出した。ひとから聞いたり、書物で読んだりした、さまざまな幽霊や妖怪変化の話。
長谷川はもとより、千代乃も、幽霊やお化を信じなかった。