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いかなるほしのもとに
如何なる星の下に
高見 順
Read 如何なる星の下に (いかなるほしのもとに) by 高見 順 (たかみじゅん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 119,508 characters · 236 screens
「ミーちゃんのことなんですがね。あの女にヘンなコナかけるのは、やめて下さい」
ぴしゃりと言う感じで、そう、いきなり、――いや彼自身にしてみれば、いきなりではなかったかも知れないが。
「コナをどうしたって?」私には何のことかわからなかった。ドサ貫は何か言おうとしたらしかったが、その時ちょうど真向うからからッ風がさっと吹きつけて来て、彼はゴホゴホとせき込んだ。胸の病いが大分進んでいるらしいのを私の耳に不気味に伝える咳であった。
日本館の方へ逸れて、
「三の酉にミーちゃんと……」咳のためか弱々しい声で、ドサ貫が言うのに、
「うん、徹夜で……」
私はうなずいて、手にまつわった二重回しの袖で、なんということなく鼻の脇をこすった。黒い羅紗地に白い脂が、びっくりするほどのあざやかさで、べっとりと付いて、その不潔さに瞬間私は、二重回しの襟にふけをいっぱい落している朝野の不潔さを思い出しながら眉をひそめ、なるほど私も浅草の空気にそまったと思った。脂ははたいても落ちなかった。大森の家にいる頃は、冬は顔がカサカサに乾いて、こんなに脂が浮くことはなかった。――脂が浮くのは、というか、顔に脂をみとめるのは、そう悪い気持ではなかった。