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ようそうき
妖僧記
泉 鏡花
Read 妖僧記 (ようそうき) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N1. Tap a word for the meaning.
N1 · advanced · modern kanji and kana · 5,972 characters · 12 screens
二
ここに醜怪なる蝦蟇法師と正反対して、玲瓏玉を欺く妙齢の美人ありて、黒壁に住居せり。渠は清川お通とて、親も兄弟もあらぬ独身なるが、家を同じくする者とては、わずかに一人の老媼あるのみ、これその婢なり。
お通は清川何某とて、五百石を領せし旧藩士の娘なるが、幼にして父を失い、去々年また母を失い、全く孤独の身とはなり果てつ、知れる人の嫁入れ、婿娶れと要らざる世話を懊悩く思いて、母の一周忌の終るとともに金沢の家を引払い、去年よりここに移りたるなり。もとより巨額の公債を有し、衣食に事欠かざれば、花車風流に日を送りて、何の不足もあらざる身なるに、月の如くその顔は一片の雲に蔽われて晴るることなし。これ母親の死を悲み別離に泣きし涙の今なお双頬に懸れるを光陰の手も拭い去るあたわざるなりけり。
読書、弾琴、月雪花、それらのものは一つとして憂愁を癒すに足らず、転た懐旧の媒となりぬ。ただ野田山の墳墓を掃いて、母上と呼びながら土に縋りて泣き伏すをば、此上無き娯楽として、お通は日課の如く参詣せり。
七月の十五日は殊に魂祭の当日なれば、夕涼より家を出でて独り彼処に赴きけり。