Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
Read 季節のない街 (きせつのないまち) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 201,379 characters · 394 screens
平さんは煮あげたぼろ布を、水道端で水洗いすると、その干し場へ掛けてぼろ布を干す。顔は無表情であり、眼も二つの穴のようにうつろだった。干したぼろ布を一枚ずつ手でひろげながら、その眼はぼろ布をも麻繩をも見てはいないようだ。空洞がなにも見ていないように、平さんの眼はいつもなにも見ていないように感じられた。
「平さんのマットレスは評判がいいんだって、常とくいがあって注文がまにあわないんだってさ」かみさんたちのお饒舌りパーティーではたびたびそんな噂が出た、「よっぽど貯めこんでるんだよきっと」
「なんのためだかさ、独り者で身寄りもなさそうなのに、貯めたってどうしようもないじゃないか」
「なにがたのしみで生きてるんだろう、映画を観にゆくじゃなしラジオを買うじゃなし、それとも隠れてパン助にでも入れあげてるんかしら」
「この長屋うちにゃあ、いつでも御用をたしたがってる者がやまといるのにさ」
或る年の十一月、――五十がらみとみえる一人の女が、小さな風呂敷包を抱えて、平さんの小屋へあらわれた。女はほっそりと小柄で、顔もちまちまとしていた。肌は白く、髪の毛や眉はまっ黒で濃く、つまんだような小さい唇はしっとりと赤かった。