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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
Read 季節のない街 (きせつのないまち) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 201,379 characters · 394 screens
で売るんじゃないって店の人が云ったら、こんな傷だらけのしなびた葉まで値段に入れるのかい、それで安八百屋だなんてよく云えたもんだ、おまえんとこは貧乏人の血を啜るんだね、って一町四方に聞えるような声で喚きたてるじゃないの」
客はこわがって出てゆくし人立ちはするしで、店の人もやけくそになったのだろう。そんなら只でやるから持ってゆきな、と云ったのがいけなかった。島さんの妻はひらき直って、おらあ乞食じゃねえぞ、と男みたような啖呵をきりだし、結局は店の人があやまって、キャベツを秤にかけたうえ値段をきめた。
「ところが驚くじゃないの、金を払って帰るときにさ、あの奥さんは自分が剥いて捨てたキャベツの葉を拾い集めて、買ったキャベツといっしょに抱えて、しゃあしゃあと出てったわよ」
魚屋へいったときの話もあるが、キャベツの例と同じように、どこまでが事実かはよくわからない。噂をする女房たちも事実を求めているのではなく、島さんの妻に対する共通の反感をたのしめばいいので、話の真偽は問わないのであった。
島さんはこの「街」へ移って来るとすぐ、古物商の小田滝三を呼んで払い物をした。