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うかのちょうじゃものがたり
宇賀長者物語
田中 貢太郎
Read 宇賀長者物語 (うかのちょうじゃものがたり) by 田中 貢太郎 (たなかこうたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 9,427 characters · 19 screens
と云う長者一門の老人でありました。下顎の出た猿のようなこの老人は、どこへでもしゃあしゃあと押しだして往って、何人とでも顔馴染になりました。国司の館などに往くと、十日も二十日もそこにいることがありました。そして、国司や、奥方の身のまわりの用を足してやりました。これがために国司の館などでは、「宇賀の老爺」「浜の宇賀」などと云って、非常に重宝がりました。長者もこの老人を可愛がって、今度の伊勢参宮にも伴れて往くと云うことになっておりました。
「老爺の用意は好いかな」と、長者は瓦盃の酒を一口甞めてから云いました。
傍の女を対手にして戯言を云っていた宇賀の老爺は、小さな円な眼を長者の方にやりました。「この老爺に用意も何もあるものではありません、これから直ぐでもお供ができます」
「……さすがに国司のお気に入る老爺ほどあるな、それでは明後日あたり出かけるとしよう」と、長者は心地好さそうに云って、空になった瓦盃を前に差しだしました。
宇賀の老爺は心持ち背後に反りかえて、かすれた声を出して今様を唄いました。そして、手にしている扇をぱちぱち鳴らして拍子をとりました。
長者は隻手を突いて、体を横にして聞いていたが、何時の間にか寝込んでしまいました。