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いえ
家
島崎 藤村
Read 家 (いえ) by 島崎 藤村 (しまざきとうそん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 141,411 characters · 285 screens
正太も豊世も出て居なかった。その時、三吉は、この婦人の口から、正太が既に名古屋の相場で失敗したことを聞いた。この婦人の若い養子も、正太と手を組んで、大きな穴を開けたと聞いた。
午後の四時頃に正太夫婦は散歩から戻って来た。表二階が正太の借りている部屋であった。
「豊世、何かお前は叔父さんに見て来て進げたら可かろう」
と正太は買物を命じて置いて、表から裏口へ通り抜けられる土間の板を渡った。三吉もその後から、この家の母親が坐っている部屋を横に見て、高い壁に添うて、箱梯子を上った。
二階は薄暗かった。三吉は正太と窓に近く坐って、互に顔を見合せた。正太が相場の失敗を語り出す前に、その意味は叔父の方へ通じていた。
「や、種々な話が有る」
と三吉は正太の並べる言葉を遮った。何となく正太は悄然としていた。それを見て、叔父は自分の旅を語り始めた。
「どうも叔父さん、種々御世話様で御座いました」と豊世が上って来て言った。「なんですか、私も是方へ来てから、また母親さんが一人加えたような気がしますわ」
階下に住む婦人がナカナカのエラ者で、商売の道にも明るく、養子の失敗を憂えていることなぞが、かわるがわる正太夫婦の口から出た。