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いえ
家
島崎 藤村
Read 家 (いえ) by 島崎 藤村 (しまざきとうそん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 126,748 characters · 254 screens
二人の後姿は突出た石垣の蔭に成った。
曾根は草木の勢に堪え難いような眼付をして、
「山の上へ参りましたら病気も癒るだろう、海よりは山の方が好い――なんて懇意な医者に言われるもんですから、人様も憐んで連れて来て下すったんですけれど……やっぱり駄目です……」
独身でいる曾根の懊悩は、何とも名のつけようの無いもので有った。彼女は医者の言葉をすら頼めないという語気で話した。
「尤も、僅か一週間ばかりの故だとは言いますけれど……」と復た曾根は愁わしげに言った。
「貴方のはどういう病気なんですか」と三吉は尋ねて、歩きながら巻煙草に火を点けた。
「我の持病です」と曾根は答えた。
暫時二人は黙って歩いた。目映しい日の光は城跡の草の上に落ちていた。
「あんまり考え過ぎるんでしょう」
と三吉は嘲るように笑って、やがて連の人達に追付いた。
城門を出たところで、曾根は二人の婦人と一緒に世話に成った礼を述べた。鉄道草の生い茂った踏切のところを越して、岡の蔭へ出ると、砂まじりの道がある。そこで曾根は三吉に別れて、疲れた足を停車場の方へ運んだ。
「曾根さんも相変らずの調子だナア」
こう三吉は口の中で言ってみて、家を指して帰って行った。