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いえ
家
島崎 藤村
Read 家 (いえ) by 島崎 藤村 (しまざきとうそん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 126,748 characters · 254 screens
その時、お種は達雄の行衛を尋ねた。
「途中で父親さんから実印を送って寄しました。それが最後に来た手紙でした。多分……支那の方へでも行く積りらしい……」こう正太は言い紛して、委しいことを母に知らせまいとした。
「一旗挙げて来る気かいナア」
と母が力を落したように言ったので、思わず豊世は胸が迫って来た。女同志は一緒に成って泣いた。
正太は母の側に長く留ることも出来なかった。伊東を発つ日、彼は母だけ居るところで、豊世の身の上に起った出来事を告げた。
聞けば聞くほど、お種は驚愕の眼をった。夫が彼女のもので無くなったばかりでなく、嫁まで彼女のものでは無くなりかけて来た。
正太は簡単に話した。父の家出が世間へ伝わると同時に、豊世の生家からは電報を打って寄した。それには老祖母さんの病気としてある。豊世は直に電報の意味を読んだ。そして、再び夫の許へ帰ることの出来ない様な疑念と恐怖とに打たれた。生家へ出掛けて行ってみた時の豊世は、果して想像の通り引止められて了った。離別の悲哀は豊世の眼を開けた――どこまでも豊世は正太の妻であった――そんな訳で、彼女は自分の生家に対しても、当分国の方に居にくい人である――彼女はしばらく東京にでも留って、何か独立することを考えようとして来た人である。