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あひるとさる
寺田寅彦随筆集 第五巻
寺田 寅彦
Read 寺田寅彦随筆集 第五巻 (あひるとさる) by 寺田 寅彦 (てらだとらひこ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 194,515 characters · 389 screens
考えてみると今どき棉を植えてみたところで到底商売にも何にもならないせいかもしれない。もっとも、統計で見ると内国産棉実千トン弱とあるから、まだどこかで作っているところもあると見えるが、輸入数十万トンに対すればまず無いも同様であろう。
花時が終わって「もも」が実ってやがてそのが開裂した純白な綿の団塊を吐く、うすら寒い秋の暮れに祖母や母といっしょに手んでに味噌こしをさげて棉畑へ行って、その収穫の楽しさを楽しんだ。少しもう薄暗くなった夕方でも、このまっ白な綿の団塊だけがくっきり畑の上に浮き上がって見えていたように思う。そういうとき、郷里で「あお北」と呼ぶ秋風がすぐそばの竹やぶをおののかせて棉畑に吹きおろしていたような気がする。
採集した綿の中に包まれている種子を取り除く時に、「みくり」と称する器械にかける。これは言わば簡単なローラーであって、二つの反対に回る樫材の円筒の間隙に棉実を食い込ませると、綿の繊維の部分が食い込まれ食い取られて向こう側へ落ち、堅くてローラーの空隙を通過し得ない種子だけが裸にされて手前に落ちるのである。おもしろいのは、このローラーが全部木製で、その要部となる二つの円筒が直径一センチメートル半ぐらいであったかと思うが、それが片方の端で互いにかみ合って反対に回るようにそこに螺旋溝が深く掘り込ま