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ならしげざっぴつ
小出楢重随筆集
小出 楢重
Read 小出楢重随筆集 (ならしげざっぴつ) by 小出 楢重 (こいでならしげ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 334,351 characters · 657 screens
九月、連続せるへとへとのわが身を上野の美術館において見出す。無数の出品画の山である、わけのわからぬ競争と苦の世界の鳥瞰である。絵画の過食と胃に停滞せるパン屑とが混合して中毒作用を起こすのと、陽気が秋に入って身内に変化をおよぼすのと、心身の疲労が重なり例年鑑査の中程から必ず下痢を催すのである。懐炉を腹にあてて残暑の炎天を上野へ急ぐ辛さは深い。
その弱り目において、自分の絵を明る過ぎる壁面に曝して見るのである。心萎びてしまう。招待日に紋付など着用して会場に立つ勇気さらに出でず。逃ぐるが如く帰阪して残る半月を胃腸の手当てで暮す。こおろぎ鳴く。
十月、初秋の自然は風景写生によろし、されど二科会大阪開会とある。相当出勤の義務あり。トランクより冬帽、セーター、オーバー等を取り出す。ナフタリン臭し。陽気定まり、身体やや元気出ず。松茸のフライ、松茸入りのすき焼等毎日食べる。
十一月、ストーヴを組み立てる支那製の大きな火鉢毎年買いたく思う。籠居してモデルを描く日多し。
十二月、モデル、画室へ現る日多し。歳末の都会風景、趣多し。神戸と大阪のバーゲンセールなど漁りあるき五〇銭のネクタイなど買う。