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しょうしょうしげもとのはは
少将滋幹の母
谷崎 潤一郎
Read 少将滋幹の母 (しょうしょうしげもとのはは) by 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 83,234 characters · 160 screens
と云って、もう一つ、ほんとうに前のよりはずっと長いのを授けてくれたが、それは「我念ふ所の人あり」と云う「夜雨」の詩であった。―――
我念ふ所の人あり
隔たりて遠き/\郷にあり
我感ずる所の事あり
結ぼれて深き/\膓にあり
郷は遠くして去くことを得ざれども
日として瞻ぎ望まざることなし
膓は深くして解くことを得ざれども
夕として思ひ量らざることなし
況んや此の残燈の夜に
独り宿りて空堂にあるをや
秋の天殊に未だ暁けず
風と雨と正に蒼々
頭陀の法を学ばざれば
前よりの心安んぞ忘る可けん
此の終りの句の、「頭陀の法を学ばざれば、前よりの心安んぞ忘る可けん」と云う言葉を、父はやゝもすれば独語のように詠じていたが、それから間もなく佛道に心を傾けるようになったのは、恐らく此の句などに影響されたせいであろう。なお滋幹は、何と云う題の詩か不明であるが、「夜深うして方に独り臥したり、誰が為めにか塵の牀を払はん」「形羸れて朝餐の減ずるを覚ゆ、睡り少うして偏へに夜漏の長きを知る」「二毛暁に落ちて頭を梳ること懶し、両眼春昏くして薬を点ずること頻りなり」「須く酒を傾けて膓に入るべし、酔うて倒るゝも亦何ぞ妨げん」