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やまのゆざっき
山の湯雑記
折口 信夫
Read 山の湯雑記 (やまのゆざっき) by 折口 信夫 (おりくちしのぶ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 5,401 characters · 11 screens
最上の高湯は、何にしても、人がこみ過ぎる。出羽奥州の人たちは、湯を娯しむと言うより、年中行事として、尠くとも一週間なり、半月なり、温泉場で暮すと言う風を守っている。そうした村々から、女房たちや若い衆が、大きな荷物を背負って、山を越えて来る。最上の湯は、其ばかりか、温泉その物が、利きそうな気をさせる。其ほど峻烈に膚に沁む。東北には酸川・酸个湯など、舌に酸っぱいことを意味する名の湯が、大分あるが、我々の近代の用語例からすれば、酸いと言うより、渋いに偏った味である。最上高湯は、狭い山の湯村に驚くばかりの人数が入りこんで居る。宿と宿とが、二階の縁から縁へ跨ぎ越えられるほどに建て詰んでいる。其で居て、何だか茫漠とした感じのあるのが、よさと謂える湯治場である。
昼貌の花 今日ひと日萎れねば、山の雨気に 汗かきて居り
最上の湯でのものだったと思うが、歌の方が却て、少し鄙びた感じを出し過ぎて居るようで、よくない。ひょっとすると、蔵王の山を一つ隔てた向う側の青根温泉で出来たものかも知れない。創作動機など言うものは、瞬間に通り過ぎるもので、こんな部分までも、記憶に残らないことがあるものである。